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福井地方裁判所 昭和31年(レ)8号 判決 1956年9月28日

控訴人 堀川久

被控訴人 堀五郎左衛門

主文

本訴控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。福井簡易裁判所昭和三十年(ト)第五九号不動産仮処分事件につき、同年五月十二日同裁判所が為した仮処分決定はこれを認可する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「控訴棄却」の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「本件仮処分の本案訴訟である福井簡易裁判所昭和三十年(ハ)第一〇七号妨害排除請求事件において、昭和三十一年九月十八日、控訴人(右事件の原告)は、右事件の請求の趣旨を『被告(本件被控訴人、以下同じ)は原告(本件控訴人)に対し、福井県坂井郡大安寺村農業委員会に対し、別紙<省略>目録記載の農地につき、原告を賃借人とする許可申請手続を為せ。被告は右農地につき原告の耕作権を妨害してはならない。訴訟費用は被告の負担とする。』と拡張訂正したから、控訴人の本件農地の賃借権につき右委員会の承認がないものとしても、右本案訴訟において控訴人が勝訴の判決を受け控訴人の賃借権が確定した場合に、被控訴人が本件農地を耕作していることは、控訴人の賃借権の回復に著しい困難を生ずるおそれがあるから、本件仮処分はその必要性がある。」と附加陳述した外原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

理由

先ず本件仮処分の被保全権利について考える。

控訴人の主張を要約すると、「控訴人は本件農地につき賃借権を有する。右賃借権については合式は大安寺村農業委員会(但し昭和二十六年法律第八十九号施行以前は同村農地委員会、以下同じ)の許可又は承認を受けていないけれども、昭和二十四年春以来右農地を引続き耕作し、右農業委員会から耕作者としての取扱を受けているから、暗黙に右委員会の承認を受けている。仮に右委員会の承認がないとしても、控訴人は被控訴人に対し、右委員会に対する控訴人の賃借権につき許可申請手続を為すべきことを本案訴訟を以つて請求しているから、右訴訟において控訴人が勝訴の判決を得て確定した場合、右農地の回復に著しい困難を生ずるおそれがある。」と云うに帰する。してみると、控訴人が主張する本件仮処分の被保全権利は、右委員会の暗黙の承認による右農地の賃借権であると云うことができる。

ところで農地法第三条第一項、第四項、同法施行規則第二条、(同法施行前は農地調整法第四条、同法施行令第二条、同法施行規則第六条)によると、農地の賃借権の設定は一般的に禁止せられ、只例外として農業委員会の許可又は承認を受けた場合等においてのみその効力を生ずるものとせられていること、その許可又は承認を得るには賃借権の設定を為す当事者双方から所定の方式に従いその申請を為すことを要し、その申請を受理した農業委員会において審査の上許可、不許可又は承認、不承認を決定し、その許可又は承認があつた場合に限り、初めて賃借権の設定がその効力を生じ、その設定を受けた賃借人が賃借権を取得するに至るのである。

ところで控訴人は、本件において、右のような農業委員会に対する許可又は承認の手続を為したことを主張且つ立証せず、只漠然と農地委員会の暗黙の承認があつた旨を主張するのみであるが、右のような承認申請手続を経ることなくして農業委員会の承認が為される筋合がない。従つて仮に農業委員会が控訴人主張の暗黙の承認を与えたとしても、右に云う申請手続を経ない承認によつては、賃借権を有効に設定し得る承認とはならず、それ故に控訴人が現に賃借権を有するものとは云い得ない。

また控訴人は、被控訴人に対し右委員会に対する控訴人の賃借権につき許可申請手続を為すべきことを訴を以つて請求中である云々と主張するけれども、右訴訟はその主張の許可を得るための被申請人の協力を求めるもので、その訴訟において控訴人が確定の勝訴判決を得た上、これに基き右委員会に対し許可申請手続を為し得ることとなるが、右委員会において審査の上許可せられて初めてその主張の賃借権の設定が有効となり、ここに控訴人は初めて賃借権を取得することとなるに過ぎない。従つて、控訴人は現に賃借権を有するものとは云えない。

してみると控訴人は本件仮処分によつて保全せらるべき有効な賃借権を有しないこととなるから、控訴人がその主張の被保全権利を有するものとして為された本件仮処分決定は違法であつて取消を免れず、それ故にこれと同旨の結論にでた原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて本件控訴は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神谷敏夫 豊島武夫 市原忠厚)

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